「授業」と「総合」と「探究」のあいだに立つこと

「総合」や「探究」など、ある概念的な言葉の意味を使用した教育事例のバッドケースのみ取り上げていき、「この概念に基づく実践はおしなべて悪い」と判断するケースは総合の時にも起きていたし、いまは忘れ去られているかもしれないけどかつては「授業」という概念にも同様のことが起きていたことを思うと、歴史は立場を変えて繰り返していくものなのだろうかと力を無くす。

授業も総合も探究も、ある典型的な型として理解すると一面的に消費され、一面的に批判されるものになる。それらの言葉を多様な実践を拓いてきた理念として理解することが重要だと思う。事実、双方の思想は対立するものでもなければ矛盾もせず、相互に補い合えるものだ。

そうした補完的な関係性が可能であることは過去にも現在にも国内外の実践が示している。いまも伴走している公立小や私立校の先生方の実践は、双方のあいだにたちながらバランスをとって、すでに多くの知識を持つ子どもたちとともにしなやかに時を過ごしている。こうした稀有ながら豊かな実践が、学校内外の世論によって左右されてしまうことを、何よりも危惧する。

そのためにも、ひとは何も知らない白紙のようなものだから精確に知識を印刷術のように伝達しなければならないと考えた近代の過ちを経て、戦後の認知科学の進展を通じて(これまで知能遅滞とみなされてきた人々を含め)すでに人は生活の中で多くの素朴な観念を保持しており、個性的な認知機能と多様な身体を伴った個々の観念を繋いでゆく「図式」の洗練と概念形成を可能にする知的で情緒的な活動の支援へと、自身の過ちを見直してきた学術の歴史を踏まえながら、

そうした知的で情緒的な活動の支援にむしろ適合的な実践が、例えば過去の時代にも目立たないながら存在していたことを史実や事例の発見とともに見返しつつ、それらを参照しながらいまともに創り上げていくような教育実践史を踏まえた実践の創造ができるようにしたいと思う。

クリミア、ウクライナのこともあり、気力がかなり落ちているなかで、所用でデューイの『経験と教育』、フッサールの『イデーンI』を読んでいる。今なお誤解に晒される両書。進歩主義と伝統主義の対立の間にたとうとしたデューイも、経験主義、心理主義、反心理主義(観念論)の対立の間にたとうとしたフッサールも共に大戦と論難を経験しているが、今の有り様を観たら同じことが人と言葉を変えて繰り返されていると思うかもしれない。

どちらの側であっても、意識的に間に立つということは、双方の視点を受け入れつつ双方の一面性を批判しながら、より具体的で多面的な視点を獲得できる方向を探ることだと思う。間に立つことはその意味で危険だ。いつでも双方から糾弾される恐れがある。橋渡しの存在になる可能性もあるけれど、こいつは敵か味方かという議論をふっかけられれば、一番居所の悪い存在になるためだ。

それでも、きっと間に立たねばならない。うちらと奴らの間に立つことでしか見えてこない現実の歪みがある。子どもと大人、教育と社会福祉、郊外と首都圏、民と官。そうしたさまざまなあいだのなかに置き去りにされ見過ごされてきた人々の現実的な痛みや悲しみを引き受けていかなければ、結局、双方の利害を押し付け合う現実を見据えられるような冷えた視点はえられず闘いは終わらない。

これを書きながら、堀江敏幸さんの初期作『郊外へ』のなかの「灰色の血」と題された一章のことを思い返していた。

郊外団地に住まう移民の子どもたちが、ローリングストーンズなどの伝記を執筆した作家フランソワ・ボンの文章教室を通じて、技術的な修正を受けつつも、自身の生活する郊外の街の現状について既存作品の言葉を転用しながら書き出していったことについて触れられているのだが、この教室で生まれた出来事を文学の「授業」と呼べばよいのか、社会課題につながる「総合」と呼ぶ方がよいのか、個々人で行った「探究」と呼ぶべきなのか、それは技術論的にはうまく形容できないことだと、きっとお読みいただいた方は思うことだろう。

自身を正当化しつつ、相手を糾弾する言葉をつくることはたやすい。その前に、その「あいだ」に立つことができることはないか考えていかなければ、私たちは容易にいくつかの言葉の間に微塵の隙間もないか異世界よりも遠い距離があると思い込んでしまう悪癖を持つからこそ、気をつけていかねばならない。

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