生活と知識が両輪で進む学校

よく奈須先生が「学校で本気で暮らせばいいんですよ」「教科は日常のなかの非日常ですから」と告げている場面を著作や校内研などで見聞きするうちに、なんとなく自分のなかで出来上がっている考え方がある。

それは「暮らす」「生活する」という言葉を牧歌的なものとか這い回る経験主義的なものと見なすのでなく、以下の二つの概念の具体化として理解するという立場。

その概念は生活陶冶と生活世界。前者はペスタロッチ、後者はフッサール。生活世界について端的にいうと、生活世界とはさまざまな知識あるいは教科領域(自然、心理、論理、数理、物理、化学、歴史、経済、芸術など)が、極めて素朴に、有機的につながり合っているというイメージ。

例えば料理ひとつをとっても、古文や小説のなかで重要な物語の起因となっていたり、その味わいひとつとっても複雑な化学反応で成立していたり、人間のさまざまな感覚器官がその味の成立にかかわっているだけでなく健康の維持にも関わっていたり、またそうした味わいをもつ料理が生み出される歴史的文化的背景があってそれらがその地域の人々のアイデンティティ形成にも関わっていたり、またその料理が商品として売買されるに当たっては経済的地理的要因が絡んできたり、人々と一緒に食べる際には国ごとに風習やマナーや倫理と絡んできたりする。

この生活世界の内側で成立している独特な関わりを、しっかりと認識する各教科固有の知識とものの見方や考え方をきちんと教えることで、暮らしのなかでは見えてこなかった繋がりを認識させ、主体的に(=本気で)生活を更新していけるのが生活に根ざした教科教育者の利点であり、その利点によって資質能力を培うのが「生活陶冶」、つまり「本気で学校で暮らすこと」だと、個人的には思っている。

そしてしばしば言われることだけれど、生活陶冶はどんなひとでも、どんな知識や資質能力であれ、事実上、物理的にかつ心理的に「自分の身近なもの」、いわば「手元にあるもの」を通じて学習され教育されるほかはないという原則の話でもある(たとえリモートで、自分の知らない知識について学ぶとしても、手元のPCから、そしてその子のすでに知っている知識を頼りに進められるほかはないという意味で)。

また、ペスタロッチ研究のなかでも言及されているように、原則としてここでいう生活は、「あらゆる陶冶手段を包括する」家庭的な生活のことであって、「社会生活」のそれではない。

家庭とは狭い関係性ながらも、料理ひとつをとっても料理を作るのも、食べるのも、キッチンを整理するのも、あらゆる活動を自分(たち)で実践する必要があるとともに、(単なるルーティンにするのでなく、より自分たちが心安く暮らしやすいようにするため)その実践を改善していくなかで具体的な資質能力がじつは問われる営みなのである。

そして幼児さんたちを見れば、生活のなかで自分ができるようになりたいことにどれほど動機付けられているかがわかるだろう。この動機をエンジンに、一人一人の生活世界を豊かに広げていくとともに、また確かな生活実感という基盤の上で知識を伝え生活実践を改善していくことで、その知識はどんなときに使うものかという文脈を理解することができる。これは活性化された知識に他ならず、言わずもがな大人になっても活用できる知識をに他ならない。

なんのために学校で知識を教えているかと言えば、(いろんな目的論はあるけれど)誰もが周囲の人と関わりつつも、根本的、事実的にはその生まれた場所で、その経済的環境のなかで、子どもであろうとも自分一人で、上手い下手に関わらず自分を律しながら、そのかけがえのない人生を生きていかざるを得ないためだ。

この冷たく揺るぎない事実があればこそ、社会福祉、教育、医療を含めた「公助」が原則として自助共助に比して優先的に全ての人に対してアクセス可能であることが必要になるという論理が成り立つのであって、逆ではない。(余談だが、この意味で福祉国家の理念は厳しい自然と社会環境の中に置かれた人間存在の孤独と孤立という悲劇的事実からスタートするのに対し、リバタリアンの個人主義は楽観的ですらある気がする)

長々と書き連ねてしまったけれど、世の中に生活実践と知識教授が両輪で進む学校が増えてくれると嬉しいなぁと思いながら、今日も研究と仕事を進めてまいります。

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