※以下は、以前のブログに書いていた記事の転載です。
ぼくはいま保育士科の学生さんに教えているのですが、幼稚園や保育園ならではの専門性として、遊びのなかの学びに気づくことができるか、という視点が挙げられると思います。
けれどそれはなにも先生に限ったことではなく、保護者や社会人にとっても必要な視点なのではないかなーと、個人的には思っています。
たとえば子どもを育てていくとき、子どもが遊びのなかで創造性を発揮しているかを知ることができると、「こら!また遊んでばっかり!ちゃんと勉強しなさい!」と叱りつけるのではなく、
「ああ、この子はこんなにも集中して、創造的にものごとを進めている。我が子ながらやるじゃん!」と思えるようになれるのじゃないか。その方が素敵なんじゃないかなぁ…と思うからです。
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とはいえ、「なぜ幼稚園で学ぶんだ?創造的な思考なら、その道のひとに尋ねたほうがよいのでは」と思うかもしれません。ですが、その道のひとが、「創造的思考について大事なことは、幼稚園で学んだんだよ」と仰っているとしたら?
たとえば、MITの学習科学の研究者であるレズニック(Resnik, M)は、「Kindergarten approach to learning」(学びへの幼稚園的アプローチ)を推奨しています。
さらに彼は、このアプローチについて、2007年の創造性と認知に関するカンファレンスでこんなタイトルの論考を発表しています。
「All I Really Need to Know (About Creative Thinking) I Learned (By Studying How Children Learn) in Kindergarten 」
直訳すると、「幼稚園で(子どもたちがいかに学ぶかを研究することによって)私が学んだ、(創造的な思考にとって)ほんとうに必要なすべてのこと」となるでしょうか。
…どこかブログの記事っぽいタイトルだなぁと思いますが、ちなみに元ネタはこちらの有名な書籍です。僕もよみましたが、とても素敵な哲学が描かれているのでオススメです。
さて、レズニックはこの論考で、幼稚園での「遊び」にこそ創造的な思考が発揮されていることを、「想像する→創る→遊ぶ→共有する→振り返る→そしてまた想像する」という【遊びのプロセス】を通して言い当てています。
確かに、私たちは「遊びたい!」と思ったとき、「何で遊ぼう、どんな風に遊ぼうかな、誰と遊ぼうかな」と想像を膨らませていきます。つまり、「何がしたいかを想像する」ことが、遊びの一番初めにある。
次に、私たちはすてきな遊びを思いついたら、「よしやろう!」と実際に遊んでみようとする。つまり、「アイデアに基づいてプロジェクトを創り出す」。
子どもたちは遊びたいプロジェクトを実現するために、じつにさまざまな仕事をしています。遊ぶために必要なものを集めたり、遊び道具を造ったり、遊ぶ場所を整えたり、友達を呼んだり、ルールを取り決めたり、先生と交渉したり…。ときには大人顔負けの意欲を見せてくれます。
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こうしたさまざまな仕事を経て初めて、子どもたちは自分たちで「創り出したプロジェクトで遊ぶ」ことができます。
普段、遊びというとこの「創り出したプロジェクトで遊ぶ」フェーズのことを意味しているように思います。ここだけをみると、確かに子どもたちははしゃいだり喧嘩したりふざけあったりしているので、「まじめでない」ようにみられることが多いとおもいます。
けれど、こうした遊びを遊ぶ段階の前には、自分で何がしたいかを想像し、その思いついたアイデアを実行に移す主体性が発揮されている必要があるということが、レズニックの言い当てによってわかってくるのではないかな、と思います。
さらにいえば、こうした遊びのうちで、「他の人と一緒に、創り出したものを共有する」ことも生じてきます。たとえば遊んでいるうちに新しいアイデアが出てきて、ふいに試してみる子どもが出てくる。それに触発されて、他の子も「それ面白そう!」とアイデアが共有され、ともに遊ぶ関係が生まれてきます。
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ただ、レズニックもいうように、遊んだ後に「これまでの体験を振り返る」機会を設けることが重要だとレズニックはいいます。遊びのなかで、何を学んだのかを子ども自身の力で気づくことが大事ということですね。
この論考のなかでは、レズニックが実践している工学的なおもちゃ作りのワークショップの例がとりあげられているのですが、それに参加した12歳の子が、このワークショップの「コツ(tip)」をこんな風に振り返っていたそうです。
Start simple(シンプルに始めよう)
Work on things that you like(好きなものでやってみよう)
If you have no clue what to do, fiddle around (もし何をするかわからなかったら、いじくってみよう)
Don’t be afraid to experiment(実験することを恐れてはいけない)
Find a friend to work with, share ideas!(友達をみつけて、アイデアをシェアしよう!)
It’s OK to copy stuff (to give you an idea)(きみにアイデアをくれるものを真似ても問題ない)
Keep your ideas in a sketch book(スケッチブックにアイデアを書きとめておこう)
Build, take apart, rebuild(つくって、はずして、またつくること)
Lots of things can go wrong, stick with it (たくさん失敗していい、やり続けよう)
この12歳の少年の「tip集」なかに、レズニックも認める通り、「創造性」にとって重要なアイデアが、いくつもあることがわかるかと思います。創造的にアイデアを生み出し、友達とシェアしながら、実験して確かめて、失敗も恐れず立ち向かっていくこと。
特に重要なことは、この気づきが教え込まれて生まれたものではなく、遊びを振り返って生まれたものである、ということです。子どもたちは遊びのなかで、実験的で創造的で、社会的な精神を培っていきます(詳細は割愛しますが、多くの研究がそのことを示しています)。
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さて、いかがでしたでしょうか。遊びのなかに多くの気づき(学び)があることを、子どもたちは知っています。もし創造的な仕事を生み出したいと考えているなら、子どもたちから創造的な思考について学んでみるのも、一興かもしれません。
@seeekone_shogo
想像から想像に繋がるプロセスは起業論でも、同じことが言えますね。
基本的にビジネスを想像し実践する過程(特にスタートアップ)での考え方は12歳の少年のtip集的な考え方でやっていくといいというのも色んなビジネス書で見ることができます。
少年的な心の中にモノを創造してくヒントがあるというのは常々感じます。
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